外国人記者と行く、荒木町夜更かし散歩⑦ ~「ちゃんこ 心山」の巻

おひさしぶりです。フリー編集者のシゲです。かつてこの近くの編集部で10年過ごした私が、あらためて荒木町の魅力を探しに外国人記者と散策します。今回は久々に会うデヴィッドと、老舗のちゃんこ屋さんに伺うことに。ここは全国でも珍しい、カレーちゃんこが人気のお店。車力門通りを新宿通りから入って荒木公園のクランクの一つ_手前の路地を左に入ったビルの2階にあります。2階なので店舗が通りに面していないわけですが、目立つ看板があるので、この一帯としては比較的迷わずに行けます。

秘伝のタレを使った名物「カレーちゃんこ」は一人前2,592円。注文は2人前から


美食家の元力士による秘伝のカレーたれ

まずはざっとこのお店の前知識を。店名にもなっている「心山丈康」の四股名で活躍した元力士が24年ほど前に開いたちゃんこ屋さんで、女将と二人で店を切り盛りしていましたが、店主が亡くなられた後、やはり元力士の板長さんが味を引き継いで現在に至っています。女将さんは今でも元気でお客さんの前で鍋を仕上げてくれます。冒頭にも書いたカレーちゃんこは創業からの看板メニューで、心山関の考案。鶏ガラと野菜ベースのスープに、醤油、塩、味噌たれの定番鍋に加え、さまざまなスパイスや野菜を使って完成した秘伝のカレーたれを使ったメニューを追加。これが珍しいうえにおいしいと評判で、今や全国的にも有名なちゃんこ屋さんになっています。現在はさらにキムチちゃんこなども注文できます。

デヴィッドとはお店集合。さすがにちゃんこ屋さんは初めてだろうと思いきや、

「たぶん3回目くらいですね。10年くらい前に両国でも食べました。相撲の稽古見て、ランチにちゃんこ鍋食べられるですね」

「夏子の酒」を愛読し、日本酒については下戸の僕より全然知識が上なのは知っていましたが、どうやら相撲についても僕より経験値が高いみたいです。

さて、早速カレーちゃんこを、と思ったところ、カウンター上になかなか魅力的なメニュー名が並んでいるのでついつい先にオーダーしてしまいました。

まずはサラダ代わりにいきなり「おしんこ」と、「和牛のタタキ」、それに「ばんちゃん揚げ」という謎のメニュー。実は「ばんちゃん」とは現板長の鈴木さんの力士時代からのあだ名だそうで、ばんちゃんが揚げるから「ばんちゃん揚げ」。見ての通りの手羽先揚げですが、これがもううんまい!甘辛く、しょっぱすぎない。「世界の○ちゃん」とかよりずっとおいしいです。和牛タタキは肉厚で、おしんこも絶品でした。

「和牛タタキ」1,500円 「お新香」はこれでなんと500円!
これが「ばんちゃん揚げ」たったの600円
上手に手羽先にかぶりつくデヴィッド

ちなみになぜ「ばんちゃん」かというと、当時人気のあったバンバン・ビガロ、っていうプロレスラーに似てたからだそうで、すいません、僕、プロレスも得意分野じゃないんですが、有名ですか? いずれにしろ、けっこうマニアックなあだ名ですよね(笑)。鈴木さんは現役時代は「荒若」の四股名で平成元年に初土俵。前人未踏の幕内1000勝力士、白鵬関が所属することで有名な宮城野部屋のご出身です。

「お相撲さんって、巡業で全国を回るので、その土地土地の名物をよく知っているんですよ。もうすぐ(取材時)名古屋場所ですが、それこそ『世界の○ちゃん』とかもよく行きましたね」

なるほど、それでこういったメニューがあるんですね。ところで創業者の心山関はいつ頃活躍されたんですか?と女将さんに尋ねたら、「若貴のお父さんの時代ね」

調べてみたら、昭和40年初土俵。いわゆる「貴輪時代」(先代貴ノ花、輪島)に高島部屋で活躍されました。写真の通り、かなりの男前です。

現役時代の心山関。いい男です。当時から「美食家でしたね」(女将)ということから秘伝のカレーたれも開発
右が現役時代の板長「荒若関」。左は今のお店での写真で、右は魁皇関

さて、本番の「カレーちゃんこ」登場です。運ばれるやいなやなんとも言えないカレーのよい香り。豚バラ肉が贅沢に乗っています。

「ウチ用にお肉屋さんにスライスしてもらっているから肉厚なんですよ。さっきのタタキもね」

と女将。時間が経つと見に来てくれて、「はい、どうぞ。もう召し上がられますよ」と丁寧に応対してくれます。

「まずはこのまま食べてみて。辛さが足らないようなら、七味を入れて」

カレー味ですが、辛すぎず上品な味です。カレーの旨味が食欲を掻き立てて、どんどんいけます。なにせちゃんこは一人前がすごい量なので、あんまり辛すぎると最後まで食べられなくなっちゃいますからね、そうした配慮もあるようです。元々辛いのが苦手な僕にはピッタリ。デヴィッドも辛さについては僕と同じような好みらしく、二人でおいしくいただきます。

厚切り豚バラ肉が贅沢に乗った絶品ちゃんこ

人柄は店の一部

丁寧にアク取りしてくれる優しい女将さん

「しつこくないでしょ。さっぱりしているから、子供でも食べやすいと思うわよ」

子供連れのお客さんも来るんですか?

「平日はあまりいないですが、土曜日とかは来ますよ。やっぱりカレーちゃんこがよく出ますね」

と、デヴィッドが、「これはなんですか?」とバナナのような野菜を箸で上手に摘んで見せると

「ナスです。アクが出ないように皮をむいているのよ」

おお、なんという心遣い。他にもつくね、しいたけ、厚揚げ、たくさんの野菜など具沢山な一品です。これで一人前2,500円。追加でシメのご飯かうどんが注文できますが、最初に料理をたらふく頼んだ我々はギブアップしてしまいました。

鈴木さんによると「部屋ではちゃんこは稽古が終わった順に格上の力士から食べて、また具を継ぎ足して、っていくんですが、下のが稽古が終わって上がるころにはスープしかない(笑)。でもお米はいっぱいあるんで、ご飯にスープをかけて食べてましたね」

その時代にこのカレーちゃんこがあったら具なしでもけっこういけたでしょうねえ・・・。

このようにナスの皮をむいてくれている。ちなみに手にしているのはデヴィッドだ。箸の使い方も上手い

途中、もう夜遅いのに突然「ただいまー」と小さな子供が店にやってきて、女将さんが梨をあげていました。お孫さんですか?と聞くと

「向かいに住んでいるところの子供なの。帰ってくると必ず寄るのよ」

もう10年くらい、近所で居酒屋をやっている家族が向かいに住んでいるそうです。元々は住居用のビルには見えないですが、たぶんリノベーションしたのでしょう。そういう、なんでも新しく作り替えちゃうんじゃない感じも、荒木町らしくていいですね。

梨、僕らも最後にいただきました。

デヴィッドの勢力取材

板長鈴木さんと相撲談義からお店の取材まで熱心にインタビュー中のデヴィッド

しばらくおいしくいただいていると、デヴィッドが

「来る前に、Wikipediaでちゃんこのこと調べたんですね。だいたい鶏の出汁に(具の肉は)鶏肉だけ? でもこれは豚肉が入ってますね」

と通な質問をぶつけました。そうなの? すると鈴木さんが

「昔はお相撲さんは手を付いたら負けなんで、ゲンを担いで二本足しか食べない、というのがあったんですね。でも今は差し入れで(豚肉や牛肉を)いただいたりもしますし、自分が入門した頃はあまり気にする人は少なかったですけど、今でも場所中だけ食べない、っていう部屋もありますね」

とのことでした、なーるほど、そういうことかあ。

相撲通のデヴィッドは取材時に始まっていた名古屋場所(ここで白鵬1000勝)の優勝予想など、鈴木さんと相撲談義に花が咲いていましたが、本題とは関係ないので、割愛(笑)。しかし次々と的確な取材の質問をお二人にぶつけます。すごいぜ、デヴィッド。以下、彼の取材(英語版にはすでにあるでしょうが)の内容です。

まず、この荒木町にちゃんこ屋さんはここだけ?という点には

「前は杉大門に1軒あったんですが、お父さんが亡くなられて閉められたようですからウチだけだと思います」(鈴木さん)

そもそもなぜ荒木町にお店を?

「私が四谷長かったので。19の時からいますから」(女将さん)

ということは花街時代もご存知?(これは僕)

「そうですね。三味線の音が界隈で聞こえてて、芸者さんもいたし、見番もありました。客層も違って、今のように若い人は少なかったですね」

外国人のお客さんは来ますか?

「よくいらっしゃいますよ。でもこっちが英語全然喋れないから、ちょっと苦労するんですが、写真を見て頼まれるのでだいたい困らないです」

英語のメニューはない?

「作んなきゃいけないんですけど、まだ。こちらが英語を覚える前に、日本語入れるだけで英語にするようななにか(端末用のアプリとか)が出てくるんじゃないかと思ってるんですけど(笑)」

とデヴィッドが

「facebookにはそういう機能ありますね」と、自らレクチャーを始めたり、和気あいあいな取材時間が過ぎていきました。なかなか居心地のいいお店です。

ちなみに、お客さんは3名からはコースのみの提供になり、逆に2名まではすべて単品注文になるそうです。

「コースには刺身などメニューにはない料理が何品かついて、鍋と、シメのご飯かうどん、デザートも入っています」(鈴木さん)

ほうほう。で、お値段は?

「お一人5,000円ですね」

えー、安っ! 今度来る時は3人以上にしようと思います。でないと食べられないメニューがあるんですもんね。逆に3人以上の場合は、追加で単品オーダーは可能だそうです。

嬉しそうに力士の写真を撮るデヴィッド。いい笑顔だね
英語に自動翻訳できるスマホの機能を説明するデヴィッド、たぶん、女将さんには全然わかってもらえないと思う・・・

鍋は国の文化を移す鏡?

前に書いたように、かつてちゃんこには鶏肉しか入れない、といったゲン担ぎレシピがあったわけですが、現在はそうした決まりはなくなってきているとのことです。となると、ちゃんこと普通の鍋はどう違うんだろう、てな話になると、女将さんが

「お相撲さんが作るからちゃんこなのよ。それ以外はただの寄せ鍋ね」と身も蓋もない一言(笑)。

なるほど、鍋って、レシピの違いで区別するよりも、地域や文化で区別することのほうが多い料理ですよね。するとデヴィッドが、

「鍋は、あまり外国人に知られていない(日本の)料理と思いますね。ブリュッセル住んでたころは、ビジネスマン向けに日本の居酒屋多かったですが、刺身、天ぷら、とんかつ、お好み焼き、そば、とかはありましたけど、鍋は見たことない」

そうなのか・・・。煮込み料理、という点では、世界各地に鍋みたいに食べる料理はあるように思うけど、逆にわざわざ日本風の鍋をメニューにする日本食店は確かに少なそうですね。みなさんも今度知り合いの外国人をどこかに連れて行ってあげる時は鍋料理がいいかもしれませんよ。これから時期ですしね。

そして、可能ならぜひこの「心山」さんを筆頭候補にしてみてください。
ではまた( ´ ▽ ` )ノ

最後に記念写真。女将は写真は苦手とのことで、デヴィッドのスマホのシャッターを切って、「人生初スマホ撮り」だったそうです
手形は右から白鵬関、大鵬関(昭和の大横綱で、当時の子供の好物を指す「巨人、大鵬、卵焼き」の名言で知られる)、把瑠都関。ちゃんこ屋さんに力士の手形は珍しくないが、ここのものは大物度が半端ない
2階にある目立つ看板。この路地はとても風情がある上に、比較的直線でカメラが設置しやすいためか、「いっつもテレビの撮影しているわね」と女将。実はこれはデヴィッドが見つけたアングルなのですが、あまりに見事なのでパクりました。すまん、デヴィッド

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AUTHOR

Tadaima Japan Editorial Team