おしゃれなバーだけど、日本酒専門
さて、わたくし、フリー編集者のシゲが、Tadaima Japanの外国人記者とともに荒木町を巡るこの企画、自分、下戸ですがこの辺の土地勘だけはあります、と初回で書きましたが、第2回は前回と同じデヴィッドとともに日本酒バーです。さすがに下戸が酒飲みにバーを紹介するのはおかしいですね。
でも大丈夫。なぜなら、デヴィッドは日本酒マイスターを目指し、このお店もすでに知っている日本酒_通です。いきなり2回目から僕が教えてもらってどうすんだ、というのはさておき、まだ開店1年半という、外観はおしゃれなバーのお店へお邪魔します。
若いマスターの石田さんは、前回の「赤身とホルモン焼のんき」の忍足店長に続き、地元片町育ち。どんだけ血が濃いのか、四谷荒木町。
さて、今回はデヴィッドにお任せで行きましょう。
「こんにちは~」
と慣れた様子でお店に入るデヴィッド。以下、マスターの石田さん(石田さんの発言は『』で表記します)とのやりとりです。

「日本酒はベルギーにいるころから飲んでましたけど、いつも熱燗ね。日本に来て冷酒知りました」
日本酒マイスターを目指している、というデヴィッドが取り出した本は、「日本酒ガイドブック」

『あ、松崎さんの本ですね。僕がいた前のお店にもよく来てらっしゃいました。でも、僕なら上原浩さんという人の本がおススメですよ。ちょっと外国の方には難しいかもしれないけど。「夏子の酒」にもモデルとなった人が登場します』
「それ、今、読んでます。日本酒関係なく、感動しますね。昔の日本の田舎の風景とか」
『あのマンガの「龍錦」という酒米も、実在の「亀の尾」という酒米を復活させて酒にした話がモデルなんです』
「そうなんですか。「龍錦」は実在しない。知りませんでした」
比較的昔のマンガなのに、デヴィッドが今夢中になっている、と前回お知らせした、尾瀬あきらさんの「夏子の酒」。彼は日本酒マイスターを目指すほどの日本酒好きなので、この作品にハマっていたんですね。
とにかく知識の塊。飲めなくても楽しいマスター石田さんの話
「お酒はどこから買ってますか?」
『都内からはあまり仕入れていませんね。地方の酒屋さんから買うことが多いです。僕が地方に行った時に探したり、試飲会で東京来たときに試したり、きっかけはさまざまですが』
当たり前だけど、とにかく日本酒に詳しく、次々に珍しいお酒を注いでくれる石田さん。デヴィッドは超辛口、と書いてある福井のお酒、「越前岬」を見るや、口の中をニュートラルにするために
「お水ください」
だって。なんかさすがな感じです。
さて、「越前岬」、日本酒度+10、と書いてます。下戸なのでよく知らないんですが、少なくとも僕は二桁の数字はこれまで一回取材で見たことしかありません。

『日本酒度、というのは、糖度を測るものではあるんですが、戦後の米不足時代に三増酒(三倍増醸酒)が流通したので、純米酒としての値を測るために考えられた指数と言われています。甘さ辛さを数値化したものではないので、数字が高いほど辛い、ということはないですね』
「うん、おいしいですね」
『酒税法ではアルコール度数21度くらいまでを「清酒」と言います、でも京都に英国人杜氏のフィリップ・ハーパーという人がいて、この人は強い酒が好きなんで、アル添(アルコール添加)せずに純米酒でどれくらいアルコール度数が高くなるかを試して、23度くらいまで行ったそうです。でもこれだと法律的には「雑酒」になってしまうんです』
「フィリップ・ハーパー、よく知ってます」
『一方でこんなお酒もありますよ。「玉旭」という富山県のお酒ですが、度数は12度くらい。言われなければ、白ワインみたいじゃないですか?』
「ホント。ワインみたいです。今度ワイン好きな彼女を連れて飲んでみてもらおう」

いろんな日本酒が出てきて、それぞれのストーリーを興味深く話す石田さん。正直、全然お酒飲んでいないのに、僕はチョー楽しかったです。勉強になることはいくつになっても面白いですね。
実はまだまだ新しい日本酒が出てくるのですが、これ以上書いているとキリがないので、もっと知りたい呑んべえさんはぜひお店に行ってみてください。
ちなみに、下戸の僕には長野産の麹の甘酒を出してくれました。「飲む点滴」と呼ばれるほど、栄養価が高いそうです。
「甘酒は、僕は1月1日に初日の出を見るためにいつも登山しますんで、その時によく山頂で飲みますね」
『それはきっと酒粕を溶かしたやつですね。それだと若干アルコールが残ります。これはお米と麹と水。俳句の世界では、甘酒は夏の季語なんですよ。あったまるためではなく、夏に精をつけるために飲んでいた』
へー! と、これは僕の感心した声です。
ジャズと猫と日本酒と
日本酒好きだけあって、興味が止まらないデヴィッドから究極の質問、
「マスターが一番好きなお酒はどれですか?」
『いやー・・・、難しいなあ・・・。まあ好き、というか、この商売をやろうと思ったきっかけになったお酒は、木曽の「十六代九郎右衛門」というお酒ではあります。昔、こういったバーで飲んでね、米と水だけでどうしてこんなにフルーティな味になるんだろう、と思ったんですね。東京で唯一取引している、大塚の酒屋さんから仕入れています」
大塚、ですかぁ(これも僕の声)。
『昔は産業地だったので、花街なんかもあって、今でも都内の日本酒飲み三大聖地は大塚、大森、荒木町、って言われるらしいですね』

いやー、次々に知識の塊です。デヴィッドの質問も止まりません。
「あとですね、聞きたかったのはなぜ「Talkin’ Loud(直訳すると「大声で話す」)」という店名ですか?」
『これはイギリスのジャズレーベルの名前ですね。アシッドジャズの。大好きなんで。店内でもいつもこのレーベルの音楽ばかり流しています』
「Label、そうでしたか。acid jazzの」
どうでしょう?雰囲気伝わりますか?日本酒にやたらめったら詳しい穏やかなマスターのお話と、ジャズのメロディが心地よい、そして下戸にも優しいお店。
最後に僕から、なぜネコのイラストをモチーフにした看板かを聞いてみました。というのも、この柳新道通りと言われる狭い道が、かつて野良猫通りとしてフジテレビでも度々紹介され、ネコ好きの僕はネコ会いたさに下戸なのに度々訪れた思い出があるからです。
『もちろん、僕がネコ好きだからです。嫁さんの姉がイラストレーターで、「酒器と猫」でイラスト描いて、って頼んだら、ネコの頭に徳利が乗っているイラストができたんです』
今はあんまりネコ、見ないですよねえ。
『いや、今でもよく見ますよ。夜中になると』
そうなんだ!実はこの日は大雨で、終電近くまでお店にはいましたが、ネコには会えず終いでした。今度は、終電気にせずにクルマで遊びに行きます。なんせ下戸なんでね、飲酒運転の心配だけはないですから。


※デヴィッドの記事はこちら
Talkin’ Loud, an authentic nihonshu bar where the bartender can help you find your favourite Japanese sake