柳生、戸岩谷の謎の巨石
この巨石の切り口をみてください。直線のラインと僅かな動きでくの字に、真ん中できれいにまっぷたつに2つに割れています。まるで刃物で切られたかのような鋭角な断面で、迷いなく刃が少し動いたように見えます。人がなかなかやってこないような山奥の森に、石をきる機械を運ぶことは考えられず、どうしてこんな場所にこの巨石があるのか、どうやって切断されたのか、みているとたくさんの疑問が浮かんできます。
古代巨石信仰と天石神社
この石は一刀石と呼ばれ、奈良の天石神社にあります。天石立神社は、戸岩谷の山の奥まった場所にある本殿を持ずに巨石そのものを神体として祀る神社です。そこには、古代の巨石信仰がそのまま息づいています。この神社には、前伏盤、前立盤、後立盤の巨岩がご神体として祀られています。この3つを総称して、天乃岩立神社といいます。これらの巨岩のさらに奥に進んでいくとまるで一刀で切り裂かれたかのような長さ8m、幅7m、高さ2mの巨石が現れます。これが、一刀石です。
天狗との戦いの伝説と一刀石
この石は、柳生の剣の達人、柳生石舟斎が剣の修行中に、あらわれた天狗をばっさりと斬ったつもりがその姿はなく、巨石が割れていたという伝説が残っているんです。天狗とは、日本の妖怪の一種で、人のふみいらないような山に住んでいると信じられおり、長くつき出た鼻の赤ら顔の山伏で、団扇を持ち一本下駄をはいて、翼がついています。 元々、このあたりは、柳生の剣豪の一族、柳生家の修練の場所といわれています。田舎の小さな山道を上っていくと、柳生の静かな山並みと茶畑が見え、さらに森のような空間の入り口に、素朴な鳥居が出現します。石舟斎はこの戸岩谷の山奥で、天狗を相手に3年間、剣の極意を悟るべく剣術修行をしたといいます。神聖な神社のご神体の巨石より、奥まった森の中にある空間は神秘的で、今にも天狗が現れるような錯覚におちいります。
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奈良県奈良市柳生町柳生字岩戸谷789