<外国人記者と行く、荒木町夜更かし散歩 ⑥ ~「BAR C-Shell」の巻>

かつてこの近くの編集部に10年ほど勤務した経験から、土地勘だけはあるフリー編集者のわたくしシゲが、Tadaima Japanの外国人記者と荒木町を散策する企画。前回に引き続きアンソニーと、今日は荒木公園前のバーに伺います。18歳から20年バーマン一筋のマスターが10年前にここに開店。帰国子女で、英語もペラペラなんです。下戸で英語がネイティブでない僕がアンソニー連れて行ったら、完全に置いていかれそうだな、こりゃ・・・。


「バーテンダー」ではなく「バーマン」

まず看板には「BAR」とでっかく書いてあって、その下に「Bar C-Shell」と小さく書いてあります。開店中は扉も常に開けっ放し。

「この辺りのお店は日本語の看板が多いですが、ここは外も中も日本語の表記は一切ないんですよ。単純に『BAR』と書いてあって扉も開いていれば、外国人も入りやすいでしょうし。で、(外国人が入って来たら)あえて始め英語が話せないふりをして、遊んでみたりします」

マスターの牧浦さんは目黒生まれ。3歳から10歳くらいまでアメリカで暮らし、日本でも通訳士の資格を持っている英語は完全ネイティブ。このツカミで、外国人ともすっかり話が弾むそうです。

店名より大きく「BAR」とある看板。店名の下には「She sells sea shells by the sea shore」とあります。直訳すると「彼女は海岸で貝殻を売る」ですが、これは英語版早口言葉だと、アンソニーが教えてくれました。牧浦さんによると、先に独立した師匠が店名の候補に挙げていたものを使わせてもらったとのこと。冒頭をあえて「C」にしているのは、「cigar、cocktail、cash、credit card、chocolateなどバーにまつわる単語の略語」といった意味があるそうです。

店内にはありとあらゆる映画のポスターや写真、ガジェット、フィギュアなどが並びます。「ゴッドファーザー」と「ゴジラ」のポスター、フィリップ・マーロウものの「ロング・グッドバイ」のポスター、「パシフィックリム」のフィギュア、ハンフリー・ボガードの写真に歴代ゴジラやストームトルーパーのフィギュア・・・映画ファン的には一貫性がないようにも見えますが、全部僕も好きな作品。話は合いそうです。

「日本だと、『まだそれ好きなの?』っていうような風潮があるでしょう?僕はアメリカ育ちなので、『好きなものはいつまでも好き』って言える性分なんです」

わかる、わかるなあ。アメリカ育ちじゃないけど^_^;

「お酒はこれだけの種類があって、実は日本のウィスキーはないんですよ。ビールみたいに、『とりあえず『山崎』』って言う人がいたら、『山崎』が好きなのか、日本のウィスキーが好きなのか。じゃあ、日本のウィスキーってどんな味?というふうに、その人の好みを分析したりするのが好きなんですね。だから自分のことを『バーテンダー』とは呼ばずに、『バーマン』と呼んでいるんです」

店内のあらゆるところに映画のポスターやフィギュアが

荒木町は外国人に向いている街?

店内にメニューはこの黒板だけ。本日のスペシャル以外のメニューはみな牧浦さんの頭の中にあります。ここにもメカゴジラがいる。ちなみにスピーカーは1978年モデルのビクター。時代の音を奏でてくれるんでしょうね

ではさっそく、呑めるアンソニーに一杯頼んでもらいましょう。基本、店主のおすすめをお願いする主義の彼は、黒板の「Smoked Gin」に注目。スモーキーな味わいのジン、かと思いきや、ホントにスモークするんです。ジンのソーダ割りを入れたグラスをガラスの容器で覆って、下からスモークチップを燻した煙を充満させます。すると氷や氷結したグラスにもほんのりと桜の香りがして、いつまでも消えません。ちなみに桜の香りですがスモークチップにはあえて桜は使っていないそうです。本当の桜よりジンに合った香りがつく、ってことでしょうね。ガラスの容器はプリザーブドフラワーを保存するための容器の底の部分に自分で穴を開けて、そこからチューブでスモークを入れています。凝り性です。

絵で見るとこんな感じ。右下の写真がスモークを入れるチューブのためにご自分で開けた穴です

実は黒板の本日のおすすめ以外にメニュー表は存在しないんですが、そこはバーマン。お客さんとちょっと話しただけで合うものをすぐに勧めてくれます。しかも、エンタテインメント性も考えていて、見ていても楽しい。アンソニーは2杯目にまたもや黒板から「Spanish Style Gintonic」なるものをオーダーしたのですが、こちらはジントニックにキュウリやワサビ、チョコレートをおろし金を使って入れていきます。こうしたドリンクを作る場所にスポットライトを当て、暗い店内でのショーのような感覚で見せてくれるので、お酒が呑めなくても楽しめました。

スペインではこのようにマルーングラスでジントニックのいろんなバリエーションを楽しむのだそう。今日はグラスの縁にはチョコ、グラスの中にはキュウリとワサビ。「kind of emotions make people alive」を表現した、とアンソニーに説明していました。「日本では、恋愛の表現はおおむね味覚なんですよ。甘酸っぱい、ほろ苦い、とか。そうした感情を表現してみたものです」

前述の通り、牧浦さんは18歳からバーマンを始めて20年。荒木町に店を出す前は、六本木ヒルズやジョエル&ロブションなどで活躍した一流のバーマンです。なぜ荒木町にお店を?と聞いたら、

「家賃が安い(笑)。あとは、たとえばロブションで接したお客さんが『また来るねー』と帰られて、1年後に『マスター覚えてるー?』って言われても・・・。必死で思い出しますけどね(笑)。お客さんと映画の話になって、『あれ観たほうがいいよ』って言われたらすぐ観るんです、僕。その感想を話すのが1年後じゃね。荒木町ならお客さんとも、近所の人とも毎日のように話ができます」

ロブションに毎年1回行っていれば、それはそれでよく行っているほうになるんだと思うんだけど^_^;、バーマンが大切にしたいコミュニケーション、そこから生まれるコミュニティは、なかなか多くはできないかもしれません。

「荒木町には『ムラ』らしさがありますよね。僕のように外からやってきた人間だとそれがよくわかります。僕とお客さんも、お客さん同士もすぐ仲良くなりますから」

あ、前回の正岡さんと同じことを言っている。確かに一般的に日本ではプライバシーを尊重する意味もあって、お客さん同士はあえてお互いの会話に入り込んだりはしないですよね。荒木町ではよそ行きでない、本音の日本人と語り合える。こういう雰囲気はむしろ外国人向きかもしれません。そういえば最近ある大手デベロッパーさんに聞いた話で、2度目の日本旅行では、フレンドリーな雰囲気が首都圏よりも強い関西のほうが欧米人に人気があるとのことでした。東京都心部においてそうした雰囲気が味わえるのは、荒木町くらいしかないと言えます。しかもこんな狭いエリアに、あらゆる業態の飲食店があるわけですから。

頑固な信念を持ちつつ、語り口は柔らかなバーマン牧浦さん。これだけの英語ネイティブは町内にも彼しかいないので、イベントやらなにやらで英語力が必要な時にはすぐに駆り出されるそうです

東日本大震災が大きく変えたこと

「荒木町に来てまもなく2011年を迎えたんですが、あの震災ですべてが変わりましたね」

? というと?

「言い方が難しいなあ。明るくなった、と言えばそれまでだけど。僕はやはり、最初はよそ者扱いな感じはあったんですよ。それが、震災とそれに続く自粛ムードで、何日もお客さんが来ない、という状態が続いて閉店するお店が増えたりしたことに危機感を持った地元出身の若い人や、外からきた若い人たちが街を盛り上げようとしたのが、今の状況を作っていると思います」

へー。確かに自粛ブームはありましたが、そこまで飲食店に影響を与えていたとは知りませんでした。

「地元で長くやってきたお店ほど、心が折れる、というんでしょうか。そういう影響はあったように思いますね」

僕も母の実家が宮城で一番津波の影響を受けた街なので、震災後の状況はよく見てきたんですが、結局のところ、たとえみんなが傷ついたとしても、大勢で一緒にいることが傷を癒す近道であることを考えると、小さな「ムラ」である荒木町がより大きなダメージを受けたのもわかる気がします。いろんな意味で日本の縮図なんだなあ、この街は。

英語で話せるので、熱心に牧浦さんに取材するアンソニー。やはり置いていかれたか・・・

Tokyo is the big giant closet

さて、そんな話をしている間、アンソニーはどうしているのかというと、僕とした会話を再度牧浦さんが彼に英語でも話してくれているのを、お酒も楽しみつつ聞いています。逆に二人が英語で話していることを再度僕が聞き返したりもしながら、会話が進んでいきます。同じことを二度話させてすいませんm(_ _)m。牧浦さん。

アンソニーも荒木町取材記者として、なぜここなのか、神楽坂と荒木町はどう違うのか、などを英語でどんどん質問を始めました。僕も話していることの7割くらいは理解できるんですが、残念ながら、肝心の言葉はだいたい残りの3割に入っていると感じたので、ここは(彼が書いていれば)アンソニーの英語の記事をお読みください。読むだけならきっとわかると思います。

神楽坂や浅草はmore touristy(観光地っぽい、ってことでしょうね)とか、銀座はperfectionだけどここはunperfection、なんて話していました。そんな中で耳に残ったフレーズが、牧浦さんが話した「Tokyo is the big giant closet」という言葉。お店にも写真のある松田優作の遺作映画「ブラック・レイン」で、「Steal is the steal. There is no gray erea」と言う高倉健に、マイケル・ダグラスが「Hey, Masa, NewYork is one big gray erea」と話すシーンが僕のお気に入りだからです。ね?このふたつ、基本同じことを言っているのに、それぞれにその街の特徴も出ているでしょ?今後飲み会のネタに使わせてもらいます。

後で調べたら、英語のclosetには「クローゼット・箪笥」の他に、それを転じて、「秘密にする」とか「公にしない」といった意味合いもあるようです。これは日本人を言いえて妙ですね。

荒木町に来る前からの常連に、元週刊プレイボーイ編集長の島地勝彦さんがいるそうです。僕らでも名前を知っている、伝説の編集長ですね。島地さんはこのお店にもお知り合いを連れてくるそうで、その一人、かの有名な写真家立木義浩さんにもらった松田優作のポートレイト。でも隣はやっぱりゴジラ

牧浦さんの話を一通り(英語で)聞いたアンソニーは、

「こういうところ、アメリカにはないですね」

と話出します。どういうところ?

「みんな同じ時間に同じ習慣をして。今、花見の季節とか、節分とか。アメリカでもクリスマスとか、サンクスギビングとか。でもちょっと違う。アメリカは今、伝統になろうとしているところ」

若い国であるアメリカには、千年とかの単位で同じことを繰り返してきた民族的歴史がない、ってことのようです。なんでも和食がユネスコの世界文化遺産になった決め手は、今でも日本人は正月におせち料理を食べる、ってことらしいですし、まあ確かにそういう歴史が日本流に言えば「阿呍の呼吸」のようなものを生み出しているとも言えます。

「皇居から(住んでいる)中野坂上まで、何回も走ったけど、(荒木町のことは)知らなかった」

なるほど、これはまさにGiant Closetですね。大きすぎて、どこになにが入っているかわからない。でも入っているものは、自分のものだから、見つけてみるとある程度の法則性はある、と。そうか、それが阿呍の呼吸を生み出しているわけか。時に阿呍の呼吸は日本人を息苦しくする部分があるのも事実なんですが、外国人から見ると、羨ましいところもあるようです。

さてさて、そんな話をしていたらそろそろ終電です。お店はまだやっていますが、アンソニーは明日も7時に起きて皇居を走る予定だそうで、ここで失礼することにしました。文章だけ読むと、牧浦さんはこだわり派の頑固兄さんみたいですが、実際はすごく物腰が柔らかくて、頑固な割に人の話にも柔軟についてくるタイプの人です。ここら辺が、「バーマン」20年のキャリアの賜物なんでしょう。みなさんも通りかかったら一度店内を覗いてみてください。呑んべも下戸も、濃い時間が過ごせることは保証します。

看板を単に「BAR」としているのは他にも意味があって、「バーはオールマイティであるべきだと思うんです。だから、ワインバーとか、焼酎バー、とかは本来はバーじゃない、と思うんです」
なるほど。既成概念にとらわれずに、自分がいい、と思う味と時間を提供してくれる、それが「バー」なんですね

※アンソニーの記事はこちら
Bar C-Shell: Fostering Communication through Pop Culture and Fine Spirits

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