外国人記者と行く、荒木町夜更かし散歩 ④ ~「坊主バー」の巻

かつてこの近くの編集部に10年くらい勤務した経験から、土地勘だけはある私、フリー編集者のシゲが、Tadaima Japanの外国人記者と荒木町を散策するこの企画、前回に引き続き、フランス人のアメリと、今回は荒木町の中心も中心、車力門通りのクランクの角にある、話題の「坊主バー」に向かいます。


車力門通りの中心に位置する、ユニークなバー

車力門通りを新宿通りから入ってちょうどクランクになる角の2階が「坊主バー」。この間の石畳を下っていくと「Tadaima Japan新宿旅館」があります

前回はベジタリアンのアメリをベジタリアン・ビーガン対応フードを出すおしゃれなバーに連れて行きましたが、今回もバー。店名の通り、お坊さんが経営するバーです。当然、精進料理です。考えてみれば、ベジタリアン料理はかつて日本のほうが欧米より断然進んでいたわけですよね。

実は「坊主バー」というお店は日本に複数あります。この店で18年前の開業から店主をつとめる藤岡善信さんによると、創始者は大阪にいたそうですが、現在は京都や中野などに、創始者の意思を受け継いだ同じ名前のバーがあります。どこも「vows bar」と、英語で「誓い」を意味する名詞のvowに複数形のsを付けて、「坊主」の音としゃれていますが、ここ荒木町のお店は「vowz bar」と、より「坊主」に近い発音になる表記を使っています。現在営業中の「坊主バー」ではここが一番の古株です。

階段下の看板。「VOWS BAR」ではなく、「VOWZ BAR」
2階のお店のドアには「檀家制」って書いてありますが、冗談だそうです(笑)。しかしどこにこんな札が売ってたんだろう?

藤岡さんによると、バーでは夜21時と23時から、「おつとめの時間」と称して、居合わせたお客さん全員で読経する、というルーティーンがあるとのことで、あえて21時前にアメリとお邪魔してみました。

「面白いですね、このメニュー」

と、アメリはお経を書いた本、いわゆる「折本」状になっているメニューに興味津々ですが、まずは21時なので、読経の時間です。

お経を書いて持ち歩く「折本」状になっているユニークなメニュー。これは日本語のみです
本日のお経を各席に配布する、イケメンの僧、藤岡さん
こんな風に誰でも読めるルビ付き
信心深い表情で(?)読経中の藤岡さんを見つめるアメリ。ちゃんとお経の書いた紙も読んでいましたよ

若い女性や外国人を中心に、ジワジワと評判が広がっている

お客さん全員に今日のお経が書かれた紙が配られ、バーカウンターの奥にある立派な仏壇に藤岡さんが向かい、みなでお経を唱えます。こういう経験は、正直、お葬式の時くらいしか、われわれ、経験しませんよね? と、すかさず藤岡さんが、

「まさにそこですね。『葬式仏教』という言い方もされます。私たちとしては、今、生きている人にもっと仏教を身近に感じてもらいたい。普段、お寺にフラッと寄って住職と話す、なんてことは今はなかなかしないでしょう? そこでこのバーを開きました。接客、という形で、みなさんとお話できますから」

読経のあと、浄土真宗の考え方について法話する藤岡さん。ユーモアも交えて、とても聞きやすいお話です
店の奥の仏壇を撮影中のアメリ

ところで、料理は精進料理として、お酒はいいんですか?

「浄土真宗は、大丈夫なんです(笑)。先ほどお経の際にもお話しましたが、仏教の宗派は大きく自力と他力に分かれていまして、自力派が厳しい修行を自らに課して煩悩を打ち払い、悟りを開くものとすれば、われわれ他力派は、念仏を唱えることで救われる、在家仏教と言われる宗派です。現実の世界では、家族を守り、仕事をしなければ生きていけないわけですから、煩悩をなくすことなんてできない。でも、重要なのは、自分は煩悩を打ち払えていない、という自覚なんですね。煩悩なんてない、という勘違いがむしろ危険である、と」

なーるほどー! すげー説得力。こんな優しい住職のお話に癒されたい、悩みを相談したい、ということでしょうか、若い女性のお客さんが圧倒的に多いのもこの店の特徴です。あと、多いのが外国の人。今日はアメリもいますが、他にもどんどん入ってきます。

「なんか、ガイドブックやウェブサイトに紹介いただいているみたいで外国人の方も多いですね」

そこで用意されている英語メニューを見てアメリが選んだのが「極楽浄土」というカクテル。「Nirvana in the pure land」って書いてあります。そう訳すんだね。ヒプノティック、というフランスのフルーツリキュールにマンゴーとクランベリーのジュースを合わせたもの。甘いもの好きのフランス人、アメリにぴったり。ちなみに、ネーミングはこの色からくるものでしょう。

英語のメニュー
これが「極楽浄土」八百縁(ここでは「円」は「縁」とメニューに書いてあります)だ!
せっかくなので、乾杯ではなく、合掌。いや、別にそういうルールはないですよ

精進料理っておいしい!

料理メニューでアメリが注目したのが「大徳寺納豆」

「大徳寺で作る納豆ってあるんですね」

と感心していましたが、大徳寺を普通に知っているあなたもすごいです。ただ、大徳寺納豆がどういうものかは知らないみたいですね。僕は連れ合いが京都で長く働いていたこともあって、多少の知識はあるんですが、大徳寺納豆はかの一休さんが伝えたものとされていて、いわゆるわれわれがイメージする納豆とは違い、納豆菌ではなく麹菌を使って発酵させたお豆。粘り気はなく、とてもしょっぱい、どちらかというと味噌や醤に近い、調味料的な味です。ご飯に乗せてそのまま食べるのは厳しいですが、お茶漬けならかなりおいしい。

「ほんと、全然違いますね、納豆と。でもお酒にはすごく合う。おいしいです」

うーむ、甘党なのか辛党なのか、アメリ。一緒に頼んだ味噌漬け豆腐は、濃厚な味がまたお酒に合います(自分、飲めないですが)。アメリも、

「チーズみたいにおいしいですね」

これも精進料理で当然乳製品など使っていません。前に「Bar BoTaNiCaL」でもベジタリアン料理でも濃厚な味、と書きましたが、精進料理もけっこう濃厚です。動物性のものを使わない料理って、むしろ、そういうものなんだろうな。アメリのおかげで思わぬ発見ができました。いつかベジタリアンに・・・たぶんならないだろうけど、肉を取らない=淡白な味、というわけでは決してないのです。

左が味噌漬け豆腐五百縁、右が大徳寺納豆五百縁、奥が浅漬け五百縁。ちなみに、チーズなど、一部精進料理意外のメニューもあります
カウンター越しに藤岡さんと談笑するアメリ。こんな風景が毎日のように展開されているそうです
「美坊主図鑑」なる本が、よく見ると表紙の左から二人目は藤岡さん!

細かいところまで仏教マインドが・・・?

最後にもしかして、と思い、ご朱印はありますか?と聞いたら、

「ええ、あります、あります」

やっぱなー。と、アメリが

「本当ですか?私集めているんです。ご朱印帳、持って来ればよかった。最近集めている人多いですよ。二十歳くらいの集めそうにない女の子たちが意外に集めている」

この場合の「二十歳くらいの集めそうにない女の子」はどうやら日本人のことみたい(笑)。ただ、外国人のアメリでなくても、最近ご朱印集め始めた人が意外に知らないのが、ご朱印は帳面なくてももらえるものなんです。だいたいサイズは決まっていますから、それくらいの大きさの半紙に書いてくれて、後で貼るんです。昔の人はご朱印帳を常に持ち歩いたりしなかったですからね。まあ、それは知ってても、自分のご朱印帳に直接書いてもらうのが意味があるんだ、という主義もあるでしょうが(もちろんご利益に差はないですよ)。

アメリも知らなかったらしく、ご朱印をもらってご満悦でした。

ご朱印、三百縁。だいたいどこのお寺でも300円ですね。法林寺のかと思ったら坊主バーなんだ。ちなみに、スタッフの僧の方々はいろんなお寺から来ているそうです
写真のお坊さんは自力派の、厳しい宗派のお寺から来ているそう。

すっかり「坊主バー」の世界に浸っていたら、そろそろ二度目のお勤めの時間。今日のところはまだまだやってくるお客さんのために席を空けましょう。藤岡さんによると、新たな試みとして、昼間に「瞑想カフェ」なるイベントも開催し始めているそうです。現在は不定期開催ですが、とりあえず4月は毎週土曜日の13時~18時。こちらも興味あればぜひ訪れてみてください。席に余裕があれば予約はなくてもいいそうですが、なにせ人気のお店でもありますし、席数も限られていますので、興味のある方はぜひ事前にお問合せを。

なんと喫茶メニューも。仏教の教えを広く伝えるために、お酒呑みじゃないと来れないわけじゃあないんですね。これなら女性一人でも、僕のような下戸でも安心です。もちろん、本来は〆めのお茶なんでしょうが
最後にびわ茶五百縁を飲むアメリ
写経もできるんだ・・・こちらは無料で体験できて、予約も特に必要ないそうです
カウンター脇にあるミニ半鐘。他にも曼荼羅とか、いろんな遊びココロのあるインテリアがあります

※アメリの記事はこちら
VOWZ BAR, a bar managed by real Buddhist monks!

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Tadaima Japan Editorial Team

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Address 東京都新宿区荒木町6 AGビル2F
Hours 19:00~25:00
Price 2,000~3,000円(お通し代500円)
Close 日曜・祝日定休
Access 東京メトロ丸の内線 四谷三丁目駅4番出口より徒歩3分
Phone 03-3353-1032
Language 日本語
英語
Website http://vowz-bar.com